【作り手の想い】
純米大吟醸「稀世」の酒米生産者
農事組合法人UPファーム
《酒米を生産する農事組合法人》
平成21年頃、涌谷町で酒米「蔵の華」を栽培し、「黄金傳」という名の日本酒を醸造する取り組みがスタートしました。その際、使用する酒米の栽培を担っていたのが、農事組合法人UPファームです。
農事組合法人UPファームは、平成20年5月に、5軒の生産者によって発足されました。JR上涌谷駅近くの掃部沖名地内のほ場に、JR石巻線を行き交う汽車に見えるよう、「黄金傳」と大きな看板を掲げ、そこで「蔵の華」の栽培に取り組みました。「黄金傳」の醸造は、東日本大震災によって一時休止されたものの、2軒の酒蔵に2年ずつ醸造。その後、「黄金傳」の事業は中止となったものの、現在までUPファームでは、主食米の「ひとめぼれ」や「ササニシキ」、もち米の「みやこがね」、転作作物の麦や大豆などとともに「蔵の華」の生産を続けてきました。
《地球沸騰の時代における稲作について》
長年にわたって「蔵の華」を安定的に栽培し続けてきた経験を頼りに、涌谷町から純米大吟醸「稀世」に使用する酒米としての栽培を依頼しています。現在、「蔵の華」の栽培は、「黄金傳」用の酒米を栽培していたほ場が基盤整備された影響もあり、4アールの面積で効率的に作付けでき、稲作に重要な水管理の条件が良い新後藤江に場所を移しています。
一方で、「地球沸騰の時代」とも言われる現代、酒米の栽培には大変な苦労があると言います。「令和5年の夏は、温暖化というよりも沸騰しているような日々でした。外に出るのも大変な気温の中、稲をきちんと育てるためには、稲の温度を下げなければなりませんでした。これまでは必要がなかった真夏の水の管理をこまめにしなければなりませんでした。時には渇水にもなり、水をかけることが困難なこともありました。しかし、それでも水を河川から汲み、かけなければいい米ができなくなるので、大変苦労しながらも仲間同士、努力して協力し合いながら水管理に集中しました。その苦労のかいもあるので、収穫の喜びはひとしおです」と頬を緩めるUPファームの宮崎光善さん。苗づくりから始まり、田植え、水管理、除草作業、稲刈り至るまで、おいしい純米大吟醸「稀世」になるよう、手塩にかけています。
《稀世を飲まれる皆さまとの交流を深める田植え体験》
純米大吟醸「稀世」の醸造が始まって4年目となる令和6年春は、これまで稀世を飲まれてきた皆さまとの初めての交流として「蔵の華」の田植えイベントが企画されました。5月12日(土)、例年に比べて日差しが厳しく、暑い日だった当日。17人の方々が北は北海道、西は三重県から涌谷町を訪れ、「蔵の華」の苗を昔ながらの手植えや田植え機に乗って田植えを体験していただきました。その様子を見ていた宮崎さんは「手植えを皆さんにしてもらい、最初はどうなるかと思いましたが、案外上手だな、これなら全部頼んでもよかったかな」と笑顔で交流を振り返ります。
また、同法人の佐々木隆雄さんも「かつては涌谷町でも仙台市内のショッピングセンターと連携して、産地交流会を実施したことがありますが、今回は本当に久しぶりのこと。本当に遠くから皆さんよく来ていただいて」と驚きを隠せません。
これまではUPファーム単独で田植えを行い、収穫をしていたところに、新たに交流が加わりました。そのことが、これまで以上に「蔵の華」の栽培に思いを込めて、草刈りや水管理に注力し、収穫の時期まで大切に育てていくという機運の醸成につながっています。